尾山台に住む

つくる 家具

既製品文化に慣らされてしまった現代人、家すら「つくる」と言わずに「買う」と表現してしまう。まして家具やキッチンであればなおさら、既製品を「買う」イメージしか浮かばない。「つくる」なんて思いつきもしない。

尾山台の家は、とことん手づくり。それは構造材や床板など建物そのものだけにとどまらず、家具やキッチンにまで及んでいる。
「つくる」文化のよさは、人と人の出会いが根本にあること。物だけでなく、つくり手である人にも惚れ込むということだ。その出会いを求めて、私たち二人は、とことん歩いた。
家具の新しいメッカとして最近は目黒通り沿いが挙げられる。当時、都立大学に住んでいたこともあって休みのたびに、目黒から自由が丘まで家具の店をていねいにめぐり歩いた。手づくり家具、骨董家具や輸入家具もじっくりと見て歩いた。時に、広尾や恵比寿、青山と足を伸ばした。

初めはごたぶんにもれず、家具は買うものと思っていた。いろいろな家具に魅せられた。人数によって大きさを変えられる食卓にあこがれ、骨董やイタリア、フランス家具のそれぞれに候補が絞られた時期もあった。ほぼ決まったねと二人で言いながらも、なぜか休みのたび、家具めぐりは続いた。

そして、衝撃的な出会い。
「家具は本来、家にあわせてつくるもの。」と若い店主。

その一言が二人の家具への眼を開いた。そこの家具は、無垢材、仕上げも植物オイルやラッカー、ウレタン塗装ではなかった。同じ木の椅子に座らされ、すわり心地をたずねられた。見かけは同じなのになぜかすわり心地が違う。それは仕上げのオイルの差だという。両方とも添加物の少ない健康なものであるが、片方はドイツ製、もう一方は国産である。ここでまた驚きがあった。なんとすわり心地のいい方は、私たちが住宅の床仕上げに使ったものと同じ、Sオイルと呼ばれる亜麻仁油を主原料としたものであった。

ここでまた告白、当時、家具は無垢材でとの発想は私たちにはなかった。いわゆる合板のつき板でもいいと思っていた。現に、候補であったイタリアのテーブルはつき板、フランス製は無垢板と統一性はなかった。塗装も、オイルなど自然塗装ではなくウレタン塗装で当り前と思っていた。家に対するこだわりと、なんとも矛盾が多かったが、その当時の二人はそんな感じであった。
何を聞いても立て板に水のごとく情熱をもって答える知識豊かな若い店主と3時間あまり感激の時間をすごし自由が丘の店を後にした。その後も、しばらく家具めぐりは続いたが、この若い店主以上に魅力を感じる出会いはなかった。
この若い店主は、戸山家具製作所の戸山顕一さん。神奈川の海老名に工場、自由が丘にインテリアショップをもつ名門家具製作所の三代目に当たる、現在は常務として活躍している。戸山家具のすばらしい所は、原木から製材、製品の完成、メンテナンスまで一貫して行っている所である。しかも、塗装工程で私たちのような過敏体質でも平気でいられるから驚き、昔から塗装にまで気を配っている家具屋さんがあったなんて。

さらに偶然が続く、都立大学のマンション住まいでは、東京日本橋高島屋の神戸家具を使っていた。実は、戸山家具もその横に横浜家具として出展していたが、二人は気づかなかった。念のためのぞいてみた。どうしてその当時気づかなかったのか二人納得、戸山家具は高島屋オリジナルということでクラッシックタイプのみ、隣の神戸家具のほうはモダン、まったく眼がいかなかった。

そういう経緯から、この二社に絞り込み、設計・見積りをスタート。この時点でも、無垢材料の戸山家具、つき板ウレタン塗装の神戸家具と一貫性はとれていなかったが、内心、戸山家具でと二人は決めていた。しかし、家具をこんなに大量につくるのは初めて、一社だけでの見積もりでは少し怖かった。
そして衝撃の結論。
神戸家具の見積もり総額は、なんと1000万円を超えた。一方、戸山家具は、その半分。神戸家具はデコレーションも売りのひとつ、戸山家具はシンプルデザインと設計そのものも違うのだが、余りの違いに唖然とするばかり。
家具への眼も開かれ、家づくりと同じコンセプトで無垢材と自然塗料の家具と内心では決めていたが、このコスト差で一層、戸山さんへの信頼感は不動のものとなった。

結果として、食器棚が2セット、それぞれのセットは3本の食器棚で構成されている。ロフトへの階段をかねた家具、やはり食器が収納されている。大きなテーブルと椅子6脚。家事コーナーの机と椅子。パソコン台。台所の丸椅子2脚。トイレの飾り棚。SKの台。書斎コーナーの本棚そして机と椅子。洗面スペースの両面仕上げされている仕切り用タンス。セミダブルベット2本。その他、階段の踏み板、出窓の板、カウンター材、トイレのドア、収納のドアと盛りだくさんの依頼となった。


ロフトへの家具階段

階段は無垢のタモ材、やはり戸山家具の提供による

入居後も、机に設置されたパソコンなどの配線隠しやファックス台、さらには冷蔵庫横スペースにすっぽりと入る収納家具などもつくってもらった。

戸山さんの家具につつまれて2年近く、その満たされた気持ちは今も持続している、いや増している。二人で暮した住まいは、尾山台で5ヶ所目となる。振り返ってみると、その都度、家具を入れ替えてきた。むだな贅沢をしてきたと忸怩たる思いもあるが、その時々の感覚で深く思慮せず「買ってきた」せいか、すぐに飽きてしまったり、使い勝手が悪いことに後から気づくという悪循環でもあった。
尾山台の家では、まったくそれがない。満足度が時間と共に増えていく感じだ。


トイレと収納のドア無垢のウォールナット

 

洗面のカウンター無垢のタモ


本箱とデスクなど 無垢のタモ

 

食卓は無垢のウォールナット

そのうれしい理由を考えてみる。
まず、サイズも置く場所にあわせて、使い方もとことん考え一つひとつ丁寧に設計したことが挙げられる。戸山さんは当然として、建物の設計者も含め、時間をかけて十分検討した成果と思っている。その結果、今でも使い勝手への不満は出てこない。造形も美しく、いまでも惚れ惚れ。
無垢材のオイル仕上げということで、メンテナンスも極めて楽にできる。何しろ、我が家にはいたずらざかりの3頭の子供がいる、なかでも甲斐犬のカイはかじる引っ掻くが大好きの幼犬期に来た、被害は甚大であった。
都立大時代の神戸家具も完全に修理して持ち込んだが、引越しから数日も経たないうちに無残な姿に逆戻りしてしまった。かじられ、ウレタン仕上げがはげた姿は痛々しい、しかも、素人で補修ができず、プロでも工場に持ち帰るしか方法はない。
戸山さんの家具も散々引っ掻かれ、かじられもしたが、こちらは余程注意深くみなければその痕跡はわからない。傷ついてもサンドペーパーで磨きオイルを塗れば、ほとんど目立たない。しかも、素人で簡単にできる。また、多少目立っても、その傷も痛々しいというよりは味になる。

よく床に寝転がって子供たちと遊ぶが、遊び飽きた子供たちに開放された時、テーブルや椅子を裏側からしみじみと見る。その後の姿が実に美しい。普通では見えない所、裏側にまで製作の丁寧さとデザインセンスが生かされている。飽きないわけだ、裏からまた惚れなおす。
そして現在、子供たち3人のそれぞれの椅子、そして私たち二人の落ち着くゆったりとした椅子、さらに飾り棚を戸山さんに設計してもらっている。どんな案がでるか、その満足度はいかなるものか、また、機会があったら報告したい。

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