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プラス思考の健康住宅づくり

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見えない所が健康の決め手

「プラス思考の健康住宅づくり」1994年発行

 化粧でいくらきれいにつくっても、健康になるわけではありません。建物も同じことで、いくら外観や内観を美しくつくったとしても健康な住宅になるわけではないのです。
 うわべからは見えない所、心や身体の内部から健康にならなければ砂上の楼閣となります。建物も同様です。建築中の現場をよく観察する重要性がここにあります。

 建物を支える構造に関わるほとんどは、完成すると見えなくなってしまうのですから。土台や柱、梁などの構造材そして基礎や地盤がその主なものです。

 しかし、ここで考えていきたいのは、そういった一般的なことではなく、もう少し根本的なことから見直してみたいと思います。
 厳選されたいい素材で腕のいい調理人が料理をつくったとしても、その調理方法が理にかなっていなければ、眼や舌に美味でも栄養が破壊されていて健康にはあまり役立っていないばかりか、逆に、健康を害していることは珍しくないことです。

 建物も同じことで、木材の質や大工の腕だけでは、健康な住宅ができるわけではないのです。調理方法すなわち建築方法が理にかなっているかどうかがより大きな前提になります。その建築方法を考える時に、表題である、見えない所が決め手になります。
 前述しましたように、日本においての健康な住宅は、広がり空間の間取りを木造在来軸組で建てることが、最低の条件となりますが、残念ながら、その在来工法ですら、湿気に弱くなり、夏も暑くなるなどの欠点が生じてしまいました。

 それは、在来工法といっても、土台、柱、梁などの軸組で構成されるという点は変化していないのですが、それ以外の多くが、あまりにも無秩序に変化していったからです。
 戦前までの家づくりは、近隣の大工の棟梁に頼むのが普通でしたが、戦後は、新建材や設備機器の発展が目覚ましく、いつの間にか、家づくりは新建材や設備機器を選んで組み合わせることだ、と言って過言ではないまでになってしまいました。

 そして、それらを無秩序に組み合わせた結果が、湿気を忘れた家づくりの現状をもたらす一因となりました。新建材や設備機器の研究がいくら進んでも、結局は、建物全体のことを考えた研究ではなく、所詮は自社の商品のみを考えた開発に終始しています。医療で言えば、対処療法を繰り返した結果、副作用で、身体全体の健康はかえって損なってしまったというところでしょうか。

 在来軸組工法を支える見えない所、それは見えない部分の空気の通り道なのです。下から見ていきますと、床下空間、一階と二階の間のふところ空間、天井裏の小屋空間です。

 これらの空間を生かして使うか、殺してしまうかで、建物全体の健康性は大きく変わってしまいます。現在は、ほとんど生かされた使い方はされていませんので、日本で育ってきた工法といっても、日本の気候の特徴である湿気の多さに対処できなくなってしまったのです。
 これらの空間を生かして使うためにはどうしたらいいでしょうか。在来軸組工法を支えるもうひとつの見えない所、それは、柱と柱の間にできる空間、内壁空洞があります。

 この内壁空洞を介して、床下空間、一階と二階の間のふところ空間、天井裏の小屋空間を相互にひとつながりに連通させて、空気が流れるようにすることで、建物全体に生命力が与えられます。
 この一連の空気の流れる道は、人間に例えれば、血管や経絡に当たるといえます。ここを詰まらしては、健康への道は程遠いというものです。
 しかし、残念ながら現在の在来軸組工法は、ほとんどが、この血管が詰まった状態なのです。デザイン性が向上して見かけは良くなりましたが、住宅の健康は、知らず知らずのうちに損なわれてしまっているのです。じわじわと。

 どのように詰まっているかを簡単に見てみましょう。まず、内壁空洞には断熱材が詰まっています。内壁空洞と床下空間の連通が妨げられる納まり、施工方法になっています。一階と二階の間のふところ空間と二階の内壁空洞の連通も同様に妨げられています。このように、在来軸組工法であれば、その意思があれば簡単に、それらを連通させることができ、空気の流れる道を確保できるのにもかかわらず、その重要性が意識されず、ほとんどの建物が、その生命活性化の通路をふさいでしまっているのは残念なことです。

 床下空間、一階と二階の間のふところ空間、天井裏の小屋空間が単独で存在していても、空気は思うようには流れないのです。縦長に、垂直に細くつづく内壁空洞と連通されることで、空気が活発に流れはじめ、その生命力を取り戻すのです。
 昔の日本の住宅の壁は、土や板などの自然の材料で湿気に対処していましたが、現在の住宅でその土や板に代わって、健康性に寄与しているのが空気の流れる内壁空洞なのです。

見えない所に空気が回るエアサイクルの住まい

 建物の中の冷たい所を建築的手法でなくすのには、どうしたらいいのかを考えていきましょう。見えない所が健康の決め手のテーマ、そして、夏、二つの風通しのテーマでも、お話ししましたが、健康の観点から見ると、在来軸組工法の最大の長所になりうる点は、見えない所、すなわち、床下空間と一・二階のふところ空間そして小屋空間が内壁空洞を介して、ひとつながりに連通することが可能で、そこが空気の流れる道になることです。

 この、ひとつながりの連通する空間を、今後は、躯体内空間と呼びましょう。この躯体内空間を完全につくったのがPAC住宅です。PAC住宅では、夏、床下換気口と棟及び小屋換気口を開放し、その躯体内空間に、夜間冷気など一連の垂直換気を生じさせて、夏の健康な住まいづくりに役立てていることは、すでにお話ししたとおりです。

 今回は、冬がテーマですから、前述した上下の換気口を閉じて、冬モードにします。これで、外気とは遮断されましたが、躯体内空間には、夏とは違う空気の流れが発生します。居間など比較的温度の高い部屋の内壁空洞の空気は、室内側から暖められて上昇します。
 一方、比較的温度の低い押入などの内壁空洞の空気は、冷えていますから下降します。このふたつの空気の流れが駆動力となって、床下空間などの躯体内空間に空気循環、エアサイクルが生じます。いわゆるエアサイクル住宅が、この段階でできたと言えます。

 エアサイクル住宅は建物全体が、柱や梁などの構造体の外側で断熱されており、冬は上下の換気口が閉じられることで、気密性の高い建物になりますが、その内側の躯体内空間で、空気が流れているのです。

 話は少し横道に入りますが、次の言葉を知っていますか。「流れる空気にふれさせろ。」昔から、木を扱う人が言っていたことですが、木を腐らせないためには、空気のよどんだ所に置くなという意味です。

 洗濯物で考えてもわかりますね。無風状態よりは、ほんの少しでも風があれば、ずいぶんと乾燥状態が違います。そして幸いなことに、土台や柱、梁などの建物を構成する重要な木材は、ほとんどこの空気の常に流れている躯体内空間にあるのです。
 乾燥ということを、もう少し考えていきましょう。では、この流れる空気の温度が高かったら、乾燥状態はどうなるでしょうか。
 当然によくなります。洗濯物でも、夜干すよりは、昼間干したほうがよりよく乾くのと同じことなのです。同様に、この躯体内空間に流れる空気が暖くなったら、一層乾燥状態がよくなり、建物の耐久性を向上させるとともに、住まいを様々な湿気の害から守ることになります。
 そして同時に、前のテーマでふれた建物の中の冷たい所を取り除く役割も果たし、住む人の健康にも貢献することにお気づきですね。
 エアサイクル住宅は、建物構造体の外側で断熱されていて、部屋の周囲には断熱されていないので、室内に発生する熱が、天井や内壁から伝わってこの躯体内空間の空気を暖めます。

 室内は、どのような熱源で熱が発生するのでしょうか。大きく分けて二つあります。生活熱と太陽熱です。この生活熱が以外と大きいのです。照明器具、冷蔵庫、テレビ、調理、風呂、暖房そして、人体からも発生しています。この熱を活用しない手はありません。
 普通の住宅は、部屋の周囲に断熱されているのですから、残念ながら、生活熱を発生した部屋以外でリサイクルさせることはできないのです。
 この意味で、エアサイクル住宅はリサイクル住宅とも言えるのでしょう。雪国など日照条件の悪い所でも、効果の高い理由がここにあります。
 さて、太陽熱をみていきましょう。窓から入る太陽光が部屋の中を暖めます。その熱がその部屋ばかりでなく、天井や内壁から躯体内空間へ伝わり、その躯体内空間に流れる空気にのって、建物の隅々まで伝わっていきます。
 この躯体内空間を構成できるのが、在来軸組工法です。昔の土壁の家からは大きく変化してしまいましたが、日本で育ってきた良さが違った意味で残ったと言えるのかもしれません。

 しかし残念なことに、現在では、在来軸組工法でもこの躯体内空間は生かされていないことは、すでに何回か述べました。
 躯体内空間は、これまでみてきましたように、暖かさ、涼しさ、温度差の解消、湿気の調整、木材の乾燥など、健康な住宅のほとんどの要素に重要な役割を果たしているのです。
 見えない所の重要さが集約されている場所なのです。木造住宅の良さが、さかんに喧伝されていますが、この隠れてしまって見えない重要部分を、再認識して欲しいものです。