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プラス思考の健康住宅づくり

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衣替えのできる家

「プラス思考の健康住宅づくり」1994年発行

 在来軸組工法を現代の健康住宅に蘇らせるためには、衣替え/の発想が必要です。日本の気候の特徴は北海道を除いて、四季が激しく変化し、湿気が多いことです。
 吉田兼好法師は、徒然草の中で「家の作りやうは、夏をむねとすべし。」と書いています。高温多湿に対する対処ですが、では、冬はどうしろと書いてあるのでしょうか。
 「冬はいかなる所にも住まる。」です。つまり、冬は厚着でもしてろということでしようか。昔の技術では、冬暖かい家をつくることは不可能だったのでしょう。
 では、現代の技術ではどうでしょうか。よく、冬暖かく、夏涼しい家というキャッチフレーズを耳にしますが本当なのでしょうか。よく読むと冷暖房が前提になっています。

 残念ながら、設備機器を使わないという前提に立ち、建築的手法で、冬暖かく、夏涼しい家をつくることはそう簡単にできることではありません。
 なぜなのでしょうか。では、吉田兼好法師を尊重して、夏を涼しくと考えてみましょう。設備機器に頼らないのですから、これはもう徹底した風通しをはかるしかありません。その上で、西陽をさえぎり、打ち水をするなどの暮らし方の工夫をし、何とか暑さを凌ぐしかないでしょう。しかし、この家の冬は、とてつもなく寒いことでしよう。
 一方、現代の家は、気密がよくなり、個室プランになって、暖房はよく効くようになりました。昔と比べれば、格段に、冬は暖かくなったと言っていいのでしよう。

 でも、夏は、逆に風通しが悪くなり、熱気や湿気が抜けずにこもる様になってしまいました。前章で詳しく述べられていますが、以外と、建築的手法で、夏冬を同時に対処することは困難だということを思い出してください。
 しかし、健康を真剣に考えるのであれば、やはり設備機器だけに頼ることは避けたいものです。
家づくりなのですから、家のつくりようで、できる限りのことまでは実現していきましょう。

 そこで、家も衣替えができたらとの発想が浮かびました。夏は、とことん風通しがよく、冬は太陽の恵みが家の隅々まで届く家。人が衣服を着替えるように、住宅も、冬と夏が切り替えられたら、しかも、湿気に十分配慮された方法を当然の前提として。
 住まいの衣替えを実現するためには、いくつかの矛盾したことを乗り越えなければなりません。
夏は、とことん風通しをはかりましたが、冬は、この風通しをなくさなくてはいけません。しかし、風通しをなくしてしまうと湿気がこもってしまいます。

 夏は、太陽熱はとりたくありません。でも、冬は太陽熱を家の隅々までもとりこみたいのです。冬は、建物内の熱を外に逃がしたくない、夏は逃がしたいのです。
 暑さと寒さ、そして湿気の課題を、夏冬同時に、ひとつの建物で解決しなくては実際の住まいづくりには役にたたないのです。
 ここで、私たちの追及する健康住宅PAC(ピーエーシー)の概念にふれておきましょう。Pはパッシブ、Aはエア、Cはサイクルの英語の頭文字です。

 健康住宅の基本は、陽当たりと風通しです。パッシブが陽当たりで、エアサイクルが風通しとも言えます。
 パッシブはパッシブソーラーハウスからきました。ソーラーハウスは太陽熱等の自然の恵みを住宅にとりこみ、省エネルギー等をはかるものですが、二種類あります。ひとつは設備機器を利用するもので、屋根の上に集熱板を設置し、そこに水や空気を流して太陽熱をとり、給湯や暖冷房に利用するタイプでアクティブソーラーと言います。

 もうひとつは、大がかりな設備機器を使わず、建築的手法の工夫で、自然の恵みを利用するタイプ、これをパッシブソーラーと言います。これまでに、建築的手法という言葉が多くでてきた理由はここにもあります。
 機械設備の寿命はせいぜい十年程度、しかも、かなりの維持管理が必要となります。建築的手法で実現できれば、その性能寿命は建物寿命と同じになり、維持管理も設備に比べずっと軽減されます。
 PAC(ピーエーシー)住宅は、間取りや工法、窓の工夫など建築的手法(パッシブ)で、冬は太陽熱や生活熱をとりいれ、建物の隅々まで空気の流れにのせて循環(エアサイクル)させ、夏は夜間の外冷気を建物内にとりいれ、昼の熱気は放出する仕組で、冬の寒さと夏の暑さ及湿気に対処していく衣替えのできる家なのです。
 衣替えの方法は極めて簡単です。PAC 専用の、布基礎につける換気口と屋根の棟などにつける換気口を、夏期には開放し、冬期には閉鎖します。およそ、夏期は四月から十月の期間、冬期は十一月から三月の期間です。仕組そのものは極めて単純ですが、実際には様々なノウハウが組み合わされて構成されています。

建築後では見えない躯体内空間が肝心

 健康な家づくりは、何かひとつの工夫だけで、決してできるものではありません。
 国産の木材を使用した、ホルマリンの少ない建材を使った、床暖房を設置したとか、今、話題になっているテーマだけを、スーパーの目玉商品のように取り上げて、健康住宅だと宣伝しているのを、よく見かけますが、一種の詐欺、誇大広告のように、感じてしまいます。
 健康な家は、単独的な要素だけや、その積み上げのみでは、実現は不可能なのです。様々な要素、例えば、素材、窓、間取り、工法などを、総合的に、そして、複合的に組み合わせてこそ、はじめて実現可能となるのです。

 日本の健康住宅の、基本的な要素、風通しと陽あたり。
 この最低限の基本要素も、単純なものではなく、総合的かつ複合的に生かさなければいけないなものなのです。
 普通は、風通しや陽あたりと言えば、居住空間のみを考えてしまいます。しかし、本当に、健康な家を求めるのであれば、それは一面的すぎます。風通しと陽あたりという当たり前のことも、もう少し、トータルに考える必要があります。
 人間の健康を考えても、皮膚や髪や爪などの体の表面、内臓などの内部、骨格、脳や神経そして血管、眼や鼻そして耳などの感覚器官、さらに、それらの働きのバランスと、様々な要素が総合的に、複合的に、良好に機能してこそ、保たれるものなのです。

 住宅も同じではないでしょうか。
 風通しと陽あたりという、この基本的な、たった2つの要素だけをとらえてみても、室内のみで考えるだけでは不十分なのです。
 建物は、屋根や外壁そして窓などの表面、天井や床そして内壁などの内面、土台や柱そして梁などの骨格で構成されています。それともうひとつ、それは、床下空間や小屋空間そして内壁空洞など、家が完成してからでは見えない、いわゆる躯体内空間です。
 建物のこれらの要素を、総合的に健康にする必要があります。

 また、建物の表面や内面そして骨格もそれぞれが単独に存在しているわけではありません。相互に支え合い、依存し合っています。
躯体内空間は、これらを複合的につなぐ、いわば、神経や血管といった役割をしていますが、残念なことに、従来、躯体内空間は重要視されることもありませんでしたし、その存在すら忘れ去られていました。

 この躯体内空間は、日常的には見える所ではありません。こびとになったつもりで、躯体内空間の探検をしてみましょう。
 床下空間から潜って、上へ上へと探検して行きます。何が見えるか、しっかりと記憶にとどめてください。

 まず、床下空間。何か見えますか。
  コンクリートの基礎、地盤面。土台や大引などの木材。1階の床材の裏面。
 壁の中に入りました。
  柱や筋交いなどの木材。壁の裏面が見えます。
 1階と2階の間のふところ空間に入りました、今度は、何が見えますか。
  梁や桁などの木材。1階の天井と2階の床のそれぞれの裏面。
 2階の壁の中です。
  やはり、柱や筋交い。壁の裏面が見えます。
 最後に、天井裏である小屋空間にはいります。
  梁や桁、棟木や母屋などの木材。2階天井の裏面。屋根面の裏面が見えます。
 いろいろなものが見えました。少し整理してみましよう。
 躯体内空間に入って見えるものは、3つに区分されます。1つ目は、土台や柱そして梁などの構造用などの木材。2つ目は、部屋の床や壁そして天井の裏面。3つ目は、屋根や外壁そして基礎などの裏面です。
 建物のすべての基本要素が見えます。すなわち、躯体内空間は、これらの基本要素すべてに影響を与えることができる可能性があるということです。
 健康な家づくりには、躯体内空間の上手な利用が必要不可欠な所以です。

  ところで、住宅における健康性とは、どういうものなのでしょうか。
 健康の健の字に、答えがありそうです。健の字は、人と建の組み合わせで構成されています。すなわち、人間と建物で健康となります。
 健康な家は、住む人すなわち家族の健康と、建物そのものの健康を、同時に実現するものであると、健という漢字が示しているのではないでしょうか。

さらに踏み込んで、見ていきましょう。人の健康は、心と身体の両方が同時に実現される必要があります。建物も、腐れすなわち耐久性の問題と、いつまでも便利に使えるという耐用性の両方が同時に解決されることが求められています。
 家づくりにおいて、家族の心の健康は、間取りのテーマとなります。見える、聞こえる、感じる・・・家族のさりげないふれあいが多いことと何度も述べてきました。

 同様に、10年も20年も、時間を越えて便利に使える耐用性のある間取りも重要性です。
 心の健康性と耐用性の2つは、広がりのある間取りが解決策を提供しています。
 一方、身体の健康と建物の耐久性の問題は、この躯体内空間と、大きく関わっています。
 現在の住宅が原因となって、現れる身体の不健康を見てみます。
   アトピー性皮膚炎をはじめ喘息や鼻炎などのアレルギー疾患。   
   薬剤による防蟻処理や建材に含まれる毒性物質による化学物質過敏症。 
   クーラーの使いすぎによる体調不良。
   暖かすぎる暖房、部屋同士の極度の温度差による体調不良。
  湿気による体調不良。

 建物そのものの不健康を見ると、
   短期間で構造材が腐るなど、耐久性が低下しました。
 人体への害の原因は、湿気と有毒の化学物質、そして温度調節の不適切さです。
 建物が腐る害の原因は、当然に湿気です。
 建物が腐る。土台、柱、梁、桁、筋交いなどの構造材が、知らないうちに、劣化し、腐っていきます。これらの木材を長持ちさせるのには、どういう対策があるのでしょうか。

 「流れる空気にふれさせろ」。昔から材木業界で言われてきた言葉です。空気がよどむと腐朽菌や虫がつきやすい、繁殖しやすいということでしょう。洗濯物が、風があると乾きやすいことは、誰もが経験ずみのことです。
 土台、柱、梁などの木材が建物のどこに存在するかは、前期の探検で明らかなことです。これら、構造上重要な木材は、すべて、躯体内空間に存在しています。

 であれば、この躯体内空間に、風がすなわち空気が流れたとしたら、土台や柱などの木材が腐朽菌などに冒されずに、丈夫で長持ちするというわけです。
 屋根や壁の裏側すなわち下地材にも、ふれているのですから、これも、同じことが言えます。
湿気は、風通しがよければ、空気が常に流れていれば、解消します。しかし、いくら室内の風通しがよくても、土台や柱など躯体内空間に存在する木材には、風はあたらないのですから、この躯体内空間に十分な空気が流れる家の建て方が必要となるのです。
 では、有毒な化学物質は、どうしたら建物から抜けるのでしようか。一番の対策は、薬剤や薬剤を含む材料を使用しないことです。これが、現在の自然素材ブームの背景です。

 しかしながら、現実には、まだまだ、建物の中に、ホルマリンやトルエン、キシレンなどの揮発性有機化合物が入り込んできます。
 合板の中に、壁紙の中に、塗料や接着剤の中に。
 万が一、これらの毒性化学物質が含まれる素材が使用された時、、建物の外に、すみやかに放出できる機能を、建物そのものが持っている必要性があります。

 これら化学物質は、やはり、十分な、風通しで抜くことができます。
 広がりのある空間では、室内に、たっぷりと風が通ります。しかし、この室内側だけの、風通しでは、建物内の奥深くに使われた、下地の合板や造りつけの家具などに含まれる化学物質は抜けず、長期間、残留してしまいます。
 やはり、下地材にも、直接、風をあてる必要があります。
 下地材は、ほとんど、躯体内空間に面しています。躯体内空間に十分な、風が流れれば、すみやかに、これらに含まれる化学物質は抜けてしまいます。
  「見えない所の風通し」の重要性は語り尽くせないほどなのです。

 夏向きの空気の流れ・冬向きの空気の流れ

 見えない所にも、陽あたりが必要。
 躯体内空間に太陽の恩恵を届けられたら、どれほど、健康な家づくりに寄与できるのだろうかを考えてみましょう。
 まず、湿気の問題。風通しがよければ、確かに、湿気の問題は解決するのですが、それでも、温度の要素は大きいのです。
 洗濯物を干しました。無風状態の時と、風がある時では、当然に、風のある時の方が、乾燥具合が、抜群によくなります。
 それでは、同じように風があったとして、夜と昼では、どちらが乾燥しますか。当然、昼間ですね。太陽がでていれば最高ですが、曇っていて、直射日光があたっていなかったとしても、圧倒的に、昼間の方が、よく乾燥します。それは、温度が高いということ、が関係しているのです。

 本当は躯体内空間に、直射日光を取り込めれば最高なのですが、なかなか困難なことです。しかし、太陽の光は、入れられなくても、熱を取り込む工夫は、そんなに困難なことではありません。
 洗濯物が、気温が高い方が乾燥するのと同様に、躯体内空間の木材なども、温度が高いほど乾燥度がよくなっていきます。
 湿気対策は、風通しすなわち空気の流れを確保することと同時に、その流れる空気の温度を高めることが重要となります。
 また、温度の調節が大事なことは、建物自体はいうまでもなく、そこに住む人の体調も大きく左右してしまいます。
 五月晴れで、クーラーがんがんのご時世ですから、今や、一軒の家にクーラーが数台あるのは、当たり前のことなのでしょう。
 コンクリートの固まりのマンション生活では、クーラーは必需品とあきらめもつきますが、せっかくの、一戸建て住宅なのです。せめて、寝るとき位は、クーラーなしでと思われても当然のことです。

 ましてや、外は涼しく爽やかなのに、どうしてクーラーがいるのかと腹立たしくなります。
風通しが悪いことと、昼間の熱気が建物全体にこもってしまって抜けないからなのです。
 躯体内空間を利用してみましょう。躯体内空間は、ご承知のように、部屋の周りをぐるりと取り囲んでいます。床の下、四周の壁の中、天井の上に、空気が常に流れているのです。 

 ここに、夜の涼しい外気が流れたらと想像してみてください。
 まず、室内の昼間の熱気が、天井面や壁面などから奪われて、暑さが徐々に抜けていきます。やがて、熱気が抜けきり、外気並の温度に室温が近づいていきます。
 熱帯夜でもない限り、夜の自然の涼しさが寝室にもたらされれば、快適に就寝ができるはずです。
 ましてや、間取りも広がりがあり、窓は網戸となれば、室内にも、爽やかな風が吹抜けます。 見えない所と見える所の、二重の風通しで、人工のクーラー空間とは比較にならない快適空間となるでしょう。

 また、夜の涼しい外気が躯体内空間を流れる時に、その冷たさが、床下の土間コンクリートなどに蓄えられます。この蓄熱された冷たさが、翌日までもちこされ、昼間の暑さを緩和させます。
 せいぜい、クーラーは、熱帯夜の除湿器として使用する程度が健康な使い方でしょう。
  また、冬の建物の温度調節を助ける機能を、躯体内空間は持っています。
 躯体内空間は、すべての部屋の四周を被っています。したがって、そこに流れる空気の温度を高くすることができれば、間接的に、すべての部屋の温度を高めることができます。

 この躯体内空間に、太陽熱を上手に採りこんだらどうでしょうか。例えば、屋根や壁に当たった太陽熱、窓から入ってきた太陽熱などを、建築的手法で採り入れることは、そんなに難しいことではありません。
 そうすることで、躯体内空間の温度を、外気よりも10度以上高めることが可能となります。そうして暖められた空気が、躯体内空間、すなわち、すべての部屋の周りを循環するわけです。

 冬の健康住宅のキーワードは、前述したように、「建物の中の冷たい所をなくす」です。居住空間ばかりでなく、躯体内空間も同様と述べました。
 そう考えると、正に、躯体内空間を暖められた空気が、循環することは、冬の住宅の健康性を高めるために、理想的方法と言えます。
 このように、躯体内空間を風が通り抜ける、空気が循環することが、日本の気候風土においては、必要欠くべからざることと思われます。
 とすれば、家の建て方は、自ずと、決まってきます。躯体内空間が、十分とれる工法であること。そして、躯体そのものが、湿気を調整できる木造であるということです。

 当然、日本の木造住宅である軸組工法ということになってきます。実際は、在来軸組工法といえども、ここに書かれてきたことは、ほとんど実行なされていません。
 しかし、軸組工法は日本で育ってきた工法であるからこそ、日本の気候風土により適した新しい建築的手法を、比較的簡単に加えて、一層、湿気に強い家をつくることが可能なのです。
 この躯体内空間の空気の流れを生かすためには、もうひとつ、工夫が必要となります。

 それは「家の衣替え」です。
 夏向きの空気の流れ。冬向きの空気の流れが求められます。
 夏は、風通し。すなわち、外気が躯体内空間を通り抜けます。
 冬は、空気循環です。外気とのつながりを閉ざされた躯体内空間内を、対流循環し、温度差をなくしていきます。
 そのために、躯体内空間と外気の連通口である、基礎の換気口と屋根の一番高い所に設置された越屋根換気口が衣替えのお手伝いをします。冬は、閉ざされ、夏は開放されます。
 こんな簡単なことで、建物全体が、夏冬の「衣替えのできる家」になります。
 もちろん、集熱通気層や空気の流れをコントロールするダンパー、蓄熱体など、さまざまな工夫がさらに必要なのは、言うまでもないことです。