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プラス思考の健康住宅づくり

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食卓から消えてしまったもの

「プラス思考の健康住宅づくり」1994年発行

 かつての日本の食卓は、四季折々の旬のものが盛り付けられ、自然の豊かさを感じさせてくれるものだった。
 いつごろからだろう、野菜も果物も季節感を失ってしまったのは。昔はトマトやキュウリは夏しか食べられなかった。今は、一年中食卓にあがる。とうもろこしだって、枝豆だって一年中食べられる。昨今の栽培技術、保存技術には目を見張る。
 しかし所詮自然には逆らえないもので、季節はずれの野菜や果物はつくられた味でしかない。季節の野菜には太陽をいっぱいに受け、あるいは寒い冬を耐えてきた力強さがあった。そして、夏には身体に冷涼感をもたらせてくれて、冬には身体を暖めてくれるという、自然の摂理に適うものだった。季節の野菜、季節の果物、そしてトマトは青ずっぱい味だったなんてことも忘れられてゆくのだろうか。
 生活が豊かになった。食生活もイタリア料理、フランス料理、中華料理をはじめ各国の料理の素材がほとんど手に入る。そのため家庭でもバラエティに富んだ食事が楽しめるようになった。
 各国の料理をつつがなく盛りつける、これまた豊かな、器の数々。食器の豊かさは世界でも定評のある日本。陶器の技術では世界でもひけをとらない。
 日本料理は包丁さばきと盛りつけにあると言われる。繊細な料理と器との妙味な調和。目で楽しみ、舌で味わい、季節のあしらいに料理人の美意識を感じ取る。
 茶の湯の器にもてなしのこころを託し、四季とりどりの旬のものと器との調和を愉しんできた日本人の感性。器には日本の食文化の伝統が今なお息づいているように思われる。
 しかしながら、あまりの食生活の豊かさ、多様性の中に日本料理の伝統がうもれてしまってはいないだろうか。
 鰹節削り、木の落とし蓋に丸底鍋、昔の台所には必ずあった。包丁も出刃包丁や刺身包丁、菜っ切り包丁と揃っていた。こうしたものの必要性が薄らいできている背景は、日本の食生活の大きな変化を物語っている。
 間取りの洋風化、何LDKの間取りは、日本の住まいにとって不可欠だった風通しを悪くし、家族のふれあいを希薄にしてしまったなどの問題を残した、ということについてはすでに述べた。
 実は食生活においても、洋風化ということがもたらしたものは、単に日本の伝統的な食生活、家庭料理を失わせつつあるというにとどまらず、健康ということで大きな害をもたらせている。
 現在の食生活を考えて見ると、一日、全く肉や油ものを口にしないという日はないのではないだろうか。朝、パン食であればハムかベーコン、昼の外食も肉の入ってないものを探すのは難しい程、和食といっても肉が入っている。夜、ちよっと一杯焼き鳥で、というお父さんも多いはず。家庭でも子供の喜ぶものはほとんど洋食。ハンバーグ・カレー・トンカツ・スパゲティ・クリームシチューと。
 実は肉は典型的な酸性食品。血液を酸性にし、血行を悪くする。おまけに日本は火山国のため土壌が酸性。イギリスは海底がせりあがってできた、カルシウムたっぷりのアルカリ土質の島。イギリスに限らずヨーロッパの土壌はほとんどアルカリ性。
 土壌が違うということは、野菜にしても水にしても質が異なるということ。同じように肉中心の生活をしていても、確実に私たちの身体の方が酸性による害が大きくなる。
 住まいのつくりが気候風土を踏まえ、長い歴史の中で日本の暮らしにあった形をつくってきたように、食生活も人類の長い歴史の中で、伝統食を築き上げてきた。
 それは土壌が酸性だなどということは知識として知らなくても、もっとも身体に適応するものが何かということをそれこそ何代にもわたって継承されてきたに違いない。
 突然食生活がガラリと変わって、そんなにも簡単に私たちの身体は適応できるのだろうか。
 食生活が洋風化されてきたのは、昭和三十年代も始めのこと。
 このころ生まれた子供達は、小さいころから、家庭でも、油もの、肉中心の食事、またファーストフード全盛という時代背景は、ハンバーガーやフライドチキン、ピザなどを日常的に口にする習慣をつくってしまった。
 この子供達にもたらされたものは肥満・動脈硬化などのいわゆる成人病、そしてアレルギー疾患だった。
 今は冷凍食品、レトルト食品、加工食品などの普及で、家庭での調理時間は極端に短縮できる。
 こうした商品が普及する背景は、仕事を持つ母親が増えているという時代の要請であったかも知れない。
 現代の住まいの台所からは母親のぬくもりが消え、豪華なシステムキッチンが、その希薄な空間の穴埋めをしているような気がしてならない。