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夫婦の生活実感でつくる家

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パッシブな暖房、見えない所から暖める

「夫婦の生活実感でつくる家」1997年発行

 まず、一般的な暖房機や暖房のあり方から、考えてみましょう。
 絶対に使わない方がいい暖房機があります。開放型のストーブです。持ち運びのできる石油やガスのストーブです。一番手軽で価格も安く、まだまだ人気があるようです。しかし、健康を志向する人が使用するものではありません。これ以上できないというほどの悪さをします。
 火は燃えるために酸素を必要としますから、人間にも必要な室内の酸素を奪うことになります。そして、排気ガスとして、有害な二酸化炭素や一酸化炭素、窒素酸化物などを部屋の中に放出します。さらに、水蒸気を多量に発生し、室内にばらまいてしまいます。
 石油ストーブが普及しはじめた頃の住宅は、伝統的日本家屋と比べれば、隙間が少なくなったといえますが、まだまだ気密性は低く、石油ストーブから出る有毒ガスや水蒸気などは、すぐに抜けてしまいましたから、開放型ストーブを使用しても、人体にはさほど悪い影響を及ばさないですみました。
 しかし、最近はどんな家でも、一昔前よりも気密性が一段と高くなり、開放型ストーブからでるガスや水蒸気は、簡単には抜けなくなり、人体に危険な状態になってきました。
 よく、石油ストーブの臭さに慣れてしまって、気にしない人がいますが、いわば危険を察知するセンサーを自ら封じているようなものです。
 石油やガスストーブを使用する場合は、給排気型のFFストーブをお薦めします。燃焼のための酸素を外から導入し、有毒な排気ガスや水蒸気を外へと放出して、室内の空気を汚染しない設置タイプのものです。
 もちろん、電気によるエアコンも室内空気汚染にはダイレクトにはつながりませんが、風でハウスダストを舞い上がらせる、冷房時にカビがフィンやフィルターに発生し、室内にばらまいてしまうという問題が残ります。
 では、理想的な暖房形態とはどういうものでしょうか?
 それは、建物の中に冷たい所をつくらない暖房です。しかし、北側の部屋や廊下そして床下や壁の中などの冷たい所を、暖房機でまんべんなく均一に暖めることができれば、問題は解決するかと思われるかもしれませんが、実際は、そういう事にはなりません。
また、すべての部屋や廊下さらに床下や壁の中などに残らず、暖房を施すことは現実性の薄いことです。仮に、多額な費用をかけてすべての空間に暖房機を置いたとしても、建物の中の冷たい所をなくすことはできません。
 暖房のあり方は、建物の性能と深く関わりあっています。建物抜きには、理想的な暖房は考えられない事なのです。
 屋根や壁そして窓や基礎の断熱性能、間取り、建物を構成する材料、空気の循環性能、室内換気や建物全体の気密性能とありとあらゆる事に関連してきます。暖房機単体の問題ではないのです。
 これらをすべて考慮して、建物全体が均一な温度に暖められる事が理想的暖房のあり方といえます。均一に暖めるといいましたが、正確な表現をすれば、建物の中から冷たい所を取り除き、暖かくも寒くもない状態をつくり出すという事になります。もちろん、床下空間などの見えない所も含めてです。
 そもそも暖房という言葉は、もはや現代の健康な家づくりにはそぐわないのかもしれません。房の意味するところは室、部屋です。暖房は、部屋を暖めるということです。部屋ごとの暖房を表しています。
 暖房した部屋のみが暖かく、していない廊下や部屋が冷たいという状況が様々な被害をもたらし、いかに不健康かはこれまでも強調してきたところです。
 暖のあたためるというイメージは、手をかざすと温もりを感じる、近づくとぽかぽかする、長くいると暑いなどの語感を伴います。すなわち、体温よりも温度が高い熱源が身近にあるというイメージです。
 長い間の日本人の生活習慣である、暖を採る、火鉢に手をかざす、ストーブに近づくという採暖の感覚から抜けられないでいるのです。
 昔は、いくら暖を採っても、隙間だらけで部屋は暖まらなかったのですが、現在では、暖房された部屋はすぐに暑すぎる位になってしまいます。
 体温より高い温度をイメージしてきた暖房という言葉が時代遅れになってしまうのも、そんな遠い将来ではないのではないでしょうか。
 ここでは、まだ暖房という言葉を使用していきますが、これからの健康な暖房は、部屋を暖めることではなく、建物全体を暖めること、そして、暖めるということは、高い温度を意味するのではなく、冷たい所をつくらない、寒くない暑くないという中間的温度を指し示めしているのです。
建物全体とは、すべての部屋や廊下というだけでは不完全です。床下空間や内壁空洞などの躯体内空間をいれて建物全体といえるのです。すなわち、建物内の見える空間と見えない空間の和ということです。
 そして、寒くも暑くもない中間的温度が健康という考えも、建物全体がそうなることを基本としています。温度差を感じない空間では、さほど、高い温度は必要とされないのです。
 むしろ、温度が高すぎると、不健康な空間になってしまいます。均一な温度空間において、寒さを感じない温度とは、着ている衣服や活動の状況によっても違いますが、活動時間帯の昼間で17度から20度程度、就寝時の夜間で12度から15度程度と、意外と、低い温度帯なのです。
 パッシブな暖房と表題に書きましたが、この場合のパッシブは、建築的手法に依存するといった意味合いです。パッシブは、パッシブソーラーハウスからきています。建築的手法によるソーラーハウス、すなわち、設計や施工の工夫による、設備機器に頼らない方法で行うということを示しています。ちなみに、設備機器を中心とするタイプを、アクティブソーラーハウスと呼んで区別しています。
 前述したように、暖冷房の設備機器の能力は単独で発揮されるわけではなく、建物の設計また断熱性や気密性などによって、大きく変わってきます。
 しかし、これまでの家づくりにおいては、建物は建物、設備は設備とバラバラに考えられており、一体の取り組みはなされていませんでした。
 パッシブソーラーという概念が導入されて以来、建物の設計や施工等の工夫で、できる限り暖かくそして涼しくする必要性が先にあり、設備は補助的に使う二次的なものであるという考え方が広まってきました。
 同時に、高断熱高気密住宅のように、365日24時間、徹底的に設備機器で集中換気そして冷暖房をするという、パッシブソーラーとは逆の考え方も登場してきました。しかし、湿気の多い日本の気候風土では、さまざまな危険性をはらんでいることは、これまでにも述べてきました。
 家の建て方そのもので、できる限りのことを行い、その後、適切に設備機器を使用する方法が、生活の器である住宅には向いているのではないでしょうか。
 パッシブな暖房を定義してみれば、まず建物は、構造や間取りそして窓や使用材料などを工夫し、太陽熱や生活熱など自然のエネルギーを、居住空間そして床下や内壁空間などの躯体内空間を含む建物内のすべての空間に分配し、建物の中から冷たい所を取り除くことのできるパッシブソーラーシステムが前提となります。
 次に、暖房設備を建物に一体的に組み込む事で、部分的な暖かさではなく常に建物の全体を暖めるようにする、いわば建物と設備が一体となったシステム。
 と言えます。
 何か難しいことのように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。前述した見えない空間すなわち躯体内空間に太陽熱や生活熱を採り入れ、温度差によって発生する自然の空気循環により、建物全体に熱分配して建物の中の冷たい所を取り除く、衣替えのできる家の躯体内空間に暖房を組み込めば、パッシブな暖房として理想的と言えます。
 いろいろな方法が考えられますが、現在採り入れているタイプは、床下空間の土間コンクリートの中に、温水の流れるパイプを設置して、まず、土間コンクリートを暖める方法です。
 この方法の長所は、パイプ内はかなり高温の液体が流れますが、周りのコンクリートはそんなに高温まで暖まらず、穏やかな暖かさを床下空間に放出します。そのため、1階の床面だけが暖まりすぎるといったこともなく、躯体内の空気循環にのって2階にも達し、建物全体をやわらかな暖かさで包みこみます。
 その結果、部屋の4周すなわち床壁天井それぞれの面が暖められます。この場合肝心なことは、暖めすぎない、それぞれの面の温度を20度以上にしないことです。
 それ以上にすると、もやっとした暑苦しさを覚え、窓を開けて冷やさなければいけないという本末転倒なことになってしまいます。冷たい所を取り除くといった感覚でいいのです。
 夜の就寝時はさらに下げて、15度弱で寝心地がいいはずです。寒さが建物の中どこにもないということが、最も重要なことなのです。当然、窓からの冷たさを防ぐことも必要事項になってきますが、この問題は後の項目で取り上げることにします。
 この暖房のメリットは、建物自体の健康性もアップさせることです。白蟻などの害虫の存在を許しませんし、長梅雨の場合などは住宅を乾燥させる役割も果たします。