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夫婦の生活実感でつくる家

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暖かすぎる不健康

「夫婦の生活実感でつくる家」1997年発行

 「暖かければ、暖かいほど良い」
 「限りないもの、それは欲望」井上陽水の歌の名文句です。満たされない心、エンドレスの欲求。戦後の経済中心、お金がすべての物社会が醸し出した幻想。ザ モア、ザ ベター。あればあるほどよい。数字で計り比較する社会が、しばらく続きました。
 会社は、売り上げ金額が多ければ多いほどいい。もちろん、利益金額も、当然、社員の数も、給料も多ければ多い程いい会社と判断されました。テレビ宣伝もやればやるほど素晴らしい会社なのでしょう。であれば毒売りもOK、許されました。

 日本人は機械ものが大好き人種。しかも新しものが、特に好き。
 車、オーディオ、ビデオ、パソコン・・・機能が多ければ多いほどよく売れる。でも使わない使えない。それでも売れるのは多機能で高性能商品と相場は決まっていました。
 機能は多くついていれば、いる程いいのです。それで満足、満たされます。ただし、買ってしばらくの間、ほんの一時のことです。
 何度も何度も繰り返してきました。まるで学習機能のないワープロみたいに。物に向かってしまったエンドレスの欲望ゆえか、悲しい定めと諦観したかのように。

 そんな刷り込み現象が、家づくりにも現われます。例えば、暖房、暖かさのあり方。暖かくなれば暖かくなるほどよいという思いこみが、心に体に浸透しています。
 いま憧れの床暖房。宣伝も盛ん、売り込みも盛んです。展示会に行けば、その暖かさが体験できます。一度いかがですか。いくつものメーカーが、色々の種類の床暖房を見せてくれます。いや、座らせてもくれます。もちろん寝転がってもOKでしょう。
 座るとお尻がポカポカと暖かく気持ちいい。
 手のひらで触っても、わっ、すごい。畳も暖かくなるのね。
 ホシイ、本当に欲しい。こんどの家に、ぜひ欲しいと思わされてしまいます。

 でも、少し待ってください。
 あなたも、日本人特有の暖かさ願望症候群にかかっていませんか。ちょっと立ち止まって心の中、いや体の中かな、じっくりと覗いてみてください。
暖かさ願望症候群、それは暖かければ暖かい程いいという、ザ モア、ザ ベターの物欲路線上にある心身願望のちょっとした病気なのです。
床暖房を難解な言語で表現すれば、「低温輻射暖房」となります。なんだか、やっぱり意味不明のわけのわからない日本語だと思いませんか。
 そうか、だから日本では間違った床暖房の使われ方ばかりなのですね。

 床暖房の正しい使い方講座。
 その1 「低温で使う」。 となると、座るとお尻がポカポカ暖かい、当然これは間違い。畳も暖かくなる、とんでもないことです。
 その2 「輻射熱の暖房」。 熱の伝わり方は3種類。伝導、対流、そして輻射。

 伝導は物体の中を熱が伝わる、そう、お尻がポカポカがそれ、座っている床面の温度がお尻に直に伝わる現象です。従って、座るとお尻ポカポカは、本来の輻射暖房ではありません。
 熱は、高い方から低い方に流れるのが常識です。お尻がポカポカという事は、床面の温度がお尻の温度よりも高いという事になります。体温は36度チョイ。お尻がポカポカでは、床面温度は4、50度。これは低温と言えるでしょうか? その1にも反します。
 対流は、水や空気の流れによって温度が伝わる様です。ガスや石油ストーブなどが一般的ですね。これにファンが付いたのがファンヒーター、FFストーブやエアコンなど風のでるタイプです。風でハウスダストを舞い上がらせることが、床暖房をもてはやす一因となっています。

 では、「輻射」は? 放射とも言います。
 太陽熱が地球に届く、その伝わり方が輻射です。物体から物体へ、直接、熱が伝わる様です。当然、この場合も高い方から低い方へと伝わります。
 人間が寒いと感じるのは、体温が奪われるからです。奪われる時もやはり、伝導、対流、輻射で奪われていきます。人の周りの温度が低ければ低いほど、体の温度も奪われ、寒さを感じるわけです。
 人の周りとは、住宅に関して言えば、部屋の空気、床面、壁面、天井面、窓面、置かれている家具などです。体が、これらの周りの物と熱交換する結果、寒く感じたり暑く感じたりするのです。
 寒く感じる時は、体から熱が周りの物に向かって逃げていきます。

それでは、ここで質問。
 では暑く感じる時は、逆に、周りの物から体に熱が伝わってくるからですか? 
 答。
それも正解ですが、そうとばかりは言えません。
 体から周りの物へ熱が伝わる、すなわち逃げる時でも暑く感じている時があります。生活上は、ほとんどがこの現象です。
 なぜって?
 周りの物から熱が体に伝わるという事は、周りの物の温度が体の温度よりも高いという事ですね。では、周りの物すべての温度が体温より高かかったら、人間はどうなってしまいますか?
 死にます。
 人間も一種の熱機関ですから、食事でエネルギーをとり体内で熱を生産し、生命活動で熱を
外へと放出するはたらきをしています。従って、体から外へ熱が放出できない状態になれば、体内に熱がこもって生命活動ができなくなってしまいます。
 この体からの放熱現象が自在にできなくなった時、暑いと感じます。すなわち、涼しく感じるだけの量、体から熱が逃げられない時です。100逃げて欲しいとき70しか逃げなければ暑いと感じるのです。

 暖房の話に戻ります。
 暖房の目的。体の熱を必要以上に外に逃がさないようにすることです。体温以上に暖めることではありません。
 もし、暑すぎる部屋にいると気分が悪くなってしまいますから、暖房のしていない寒い部屋や廊下へ、行ったりきたりして体温調整をしなければならなくなります。
 不健康、不経済、そして何か変ですね。
 床暖房が理想の暖房と言われているのは、「低温」であり、「輻射」利用である所にあります。
 低温とは何度程度とお思いですか。
 20度前後。これでは、お尻ぽかぽかとはいきませんね。実は、20度でも寒くない健康暖房は可能なのですが、暖房機だけではできないのです。そこでメーカーは、しかたなく、いや、売らんかな?で暑すぎる温度にしているのです。
 「低温」と「輻射」による健康暖房の実現は、建物全体の総合的性能に深く関わっているのであって、暖房機単独の問題ではないのです。
 その実現方法のヒントは、「ペンギンと猫の同居する家」の次項でお話することにしましょう。