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夫婦の生活実感でつくる家

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五月晴れ、クーラーがんがん展示場

「夫婦の生活実感でつくる家」1997年発行

 不思議と5月の連休は晴れ渡った日が多い。まさしく五月晴れ、豊かな新緑、一年中で最も爽やかな季節です。家づくりを考える人にとって、遊びがてら住宅展示場に出かけるには絶好の日々、そして、総合住宅展示場には大手メーカーがずらりと出展しています。
 ツーバイフォーやパネル工法、軽量鉄骨、重量鉄骨、スチールハウス、コンクリート住宅、木造住宅、高断熱高気密住宅、ソーラーハウスと多種多様です。最近は、輸入住宅も加わって国際色にあふれています。でも、ひとまわりするだけでクタクタ。

 それでも5月の爽やかさです。巡った家々も涼やかな印象が残ります。そんな折り、何気なく玄関脇に目をやるとクーラーの室外機のファンが回っています。あれれっ、もうクーラーがかかっていたの?
 気になって住宅の周りを歩いてみました。クーラーの室外機が1台、2台・・・5台6台。しかも1軒2軒じゃない、展示場のほとんどの家にクーラーが5台も6台もみんなファンが回転しています。スイッチオン。そういえば、展示場の窓は開いていなかったなぁ。
 何か摩訶不思議な気持ちに囚われませんか。この最高に爽やかな明るい季節に、変ですね。
窓を開けて風を通せばいいのに。

 そういえば、こんな話を思い出しました。最近、北海道でよく売れるようになった家電商品は何でしょう。意外なことに、クーラー。
 五月晴れの展示場にクーラーがんがん。北海道でもクーラーがばか売れ。世の中は驚きに満ちています。どうして、このような現象が起こってしまったのでしょうか。
 その答えは、「住宅が変わった」。
 その変化は、善であるのか、悪であるのか。ハムレットの悩みとなります。それとも、善でも悪でもなく、環境の悪化で窓を開けられなくなってしまい、やむなく起こった必然の結果なのでしょうか。
 まさか、いくらなんでも、そこまでは空気は汚染されてはいないでしょう。5月は銀座のど真ん中のビルでさえ、車の少ない日曜日は、窓を開けたほうが爽やかなのですから。

 と言うことは、答えは、やはり「住宅が悪い方向に変化してしまった」ではないでしょうか。
日本の家づくりの原点を、『徒然草』第五十五段のはじめに「家の作りやうは、夏をむねとすべし。」と吉田兼好が指摘しています。「暑きころ、わろき住居は堪へがたき事なり。」と。
 夏涼しい家が原点なのです。吉田兼好ならずとも、日本の気候風土を考えあわせれば、風通しのいい、夏過ごし易い家が当然の帰結になるはずです。

 風通しは、涼しさを得るばかりでなく建物内の湿気を調整して、カビやダニの発生を抑え、建物を腐れから守る働きをしていたのですから。
 しかし、現代の家は、5月にすでにクーラーが必要となります。その根本原因は、 「家づくりは、冬にこそ重点をおいて、するべきである。」と『徒然草』が現代版に改訂されてしまったからでしょう。

 昔の家は、風通しが徹底していました。確かに、夏には熱気や湿気が抜けて、自然の爽やかさや涼しさを得ることができました。しかし、冬も同様に風通しがよく、建具や畳、壁などからの隙間風もあり、それこそ、板床などは冷たく素足ではじっとしていられないほど家中が寒かったのです。昔の家に、いくら暖房機を持ち込んでも部屋が暖かくならないのは、そのためです。
 『徒然草』では、冬のことも書いています。「家の作りやうは、夏をむねとすべし。」と述べたそのすぐ後に「冬はいかなる所にも住まる。」と。寒さは厚着をすれば我慢ができるといったところでしょうか。実際は、当時の家づくりの技術では、冬の寒さに対して手の打ちようがなかったのでしょう。やはり、冬は家の中でも、相当に寒かったはずです。

 現代の家づくりは、昔の家の寒さが忘れられず、戦後の様々な技術革新で出現してきた、いわゆる新建材で、冬対策をすすめた結果、夏向きの家が捨てられてしまったのです。
 その結果、隙間風はなくなり、暖房は効くようになったのですが、逆に、夏も室内の熱がこもってしまい、5月にさえクーラーが必要になってしまいました。
 1年中、機械に頼らなければ住めない家になったと言えます。何かおかしい、家づくりの観点が、ずれにずれてしまったのではないでしょうか。
 昔は、「つれづれ」草が基準、現代は「ずれずれ」草が基準なのでしょうか。
 昔の「つれづれ」草の時代の家。屋根は茅葺き。壁は土。木と紙の建具。板床、畳。床下に犬猫、子供が遊ぶ。田の字間取り。大きな開口。骨は太い木。
 現代の「ずれずれ」草の家。屋根は石綿スレート板。壁はモルタル、サイディング。アルミの建具。床は合板フローリング。コンクリートの基礎に閉ざされた床下。個室だらけで小さい窓。家中ぐるりと断熱材。骨は細木や鉄。パネルの家は骨すらなし。
あまりの変化に唖然とさせられます。しか50年も経たない短い時間で起こってしまった、いわば、戦後の経済成長が生み出した落とし子と言えます。
 昔と比べて良くなったと言える事。燃えにくい材料になりました。壁や建具の隙間が少なくなり暖房が効くようになりました。地震にも強くなったと言えるでしょう。
 しかし、夏は熱がこもりクーラーがいるようになりました。しかも、そればかりではなく、もっと深刻な意味で、決定的に悪くなった事があります。
 日本の気候風土を無視した家づくりになってしまったのです。日本の気候風土の特徴は、ひと言で表せば、「雨が多く湿気に悩まされる」ということでしょう。
 日本の国土に建てられる家は、湿気に強くなければいけないのです
 「つれづれ」草から「ずれずれ」草への家づくりの変化で、湿気に対して強くなったものは、何ひとつとして無かったのです。もう一度、前ページの変化をじっくりごらんください。
 雨と湿気の多い国で、こんな変化が急激に起こればどうなるか、どなたでも想像できることではないでしょうか。
 建物の寿命が短くなった。カビやダニの発生が多くなりアトピー性皮膚炎が子供の3人に1人、いや2人に1人と言われるまでになった。建築後の湿気がなかなか抜けずに、すぐに壁がかびる。その結果、カビやダニ対策として薬剤があらゆる建材に使われるようになり、こんどは化学物質過敏症、と悪循環がつづいています。
 五月晴れでクーラーが必要な、夏暑くなってしまった家。湿気が引き起こす悪循環を背負い込んだ極めて健康に悪い家。そんな家ばかりが多くなってしまいました。

40.7℃ 猛暑の夏(2004年)でも快適な家
尾山台の家に住むから