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夫婦の生活実感でつくる家

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発癌物質になってしまった家、室内空気汚染

「夫婦の生活実感でつくる家」1997年発行

 澄み渡った青い空を見るとほっとする。正月そしてお盆になると大都市の都心部にも美しい空が戻ってくる。東京に来ると息苦しくなる、よくこんな所に住めるものだなどと、地方の人から言われる。
 空気そのものも汚れていると思う。しかし、それよりも過密人口の慌ただしい都会の生活に、精神的にもそうした印象を持つのかも知れない。
 最近は、恐ろしいことに外気よりも室内の空気の方がはるかに汚染されていると言われる。となると、地方も東京も家の中の条件は同じことになる。

 新築病、シックハウスなどと言われ、新築住宅に住んでいると化学物質過敏症になると言うことが大きな問題となってきている。
 化学物質過敏症はアレルギーの伏線としてでてきた病だと思う。
 住まいの断熱気密化にともない、湿気の抜けなくなった住まいがもたらせたカビそしてダニ。カビの胞子やダニの糞・死骸がアレルギーの原因だと言われて十年余りの月日が経つ。
 それまでアレルギーの原因は、卵・大豆・牛乳を代表とする食べ物にあると言われていた。家の中にダニが繁殖していると言う事実そのものが大きな衝撃を与えた。

 これからの住まいは湿気に対しての配慮が不可欠、風通しの良い家をつくろうという気運がひととき高まった。
 しかし家を建て替える場合は良いとして、今住んでいる家はどうしたらよいのかという深刻な問題にぶつかった。
 対策は、徹底した掃除、そしてこまめな換気ということにつきた。それで済めば良かった。しかし一方で各薬剤メーカーが競ってカビ取り剤、防カビ剤、ダニ防除剤を売り出し、薬剤メーカーの狙い目通り、各家庭に速やかに浸透していった。
 家庭内農薬による室内空気汚染の第一歩だった。市販の薬剤を手始めに、家を建てる時の建材や接着剤、畳、カーペット、クロスあらゆるものに殺菌剤、抗菌剤と称する、農薬をはじめとしたさまざまな化学物質が使われるようになる。
 もちろんこれまでもさまざまなかたちで室内を汚染していた化学物質が、ますます気密化する家づくりの中で顕在化してきた問題でもあった。

 中でも大きくとりあげられたのが畳の防ダニ剤、ビニールクロスの難燃剤・可塑剤、床下の防蟻処理剤、殺菌剤のホルムアルデヒドに代表される揮発性有機化合物(VOC)だった。
 殺虫剤、防虫剤そして畳につかわれる薬剤や防蟻処理剤はすべて成分は農薬そのもの。頭痛、吐き気、倦怠感、湿疹等の表情があらわれた。
 難燃剤・可塑剤、そして有機リン系の薬剤は神経毒性が心配される。いずれにしても農薬には発癌性がある。
 空気の中の毒は目に見えない。しかも瞬時に身体全体に毒が回る。例え汚れた空気とわかっていても息を止める訳にはいかないから逃れられない。空気汚染の問題が深刻といわれる所以である。

 そして今、室内空気汚染の問題を解決するために計画換気が必要だと言われる。室内空気汚染の問題はシックビルに始まる。
 高層ビルは冷暖房、換気を機械で行う。しかし湿気の多い日本では換気ダクトの中に発生する細菌が懸念される。
 一年中稼働させておけば良いのかも知れないが、実際にはそういう使い方はされていない。休み明けビルの空調からはカビ臭さが漂う。
 住宅でもひと夏使っていないクーラーのつけはじめに目や喉が痛くなったり、鼻がぐすぐすしたりする。
 ビルと同じように、各室に換気ダクトを這わせ、機械でコントロールするという解決策にはどうしても疑問が残る。

 シックビルの教訓が生かされていない。住宅にビルのような機械換気は必要ないと思うし、ビルと違って窓が開けられない訳ではない。
 高断熱高気密の家が計画換気を重視するのは、窓を閉じきった状態では人が生活する上で必要な換気回数が得られない程、気密が高くなっているせいである。
 下手をすると酸欠状態に陥ることを心配している。しかも外気の影響を大きく受ける窓を小さくする傾向にあって、最初から窓を開けて換気するという考えがない。
 室内が個室を中心とした閉鎖的な間取りであれば、窓を開けてもほとんど風が通らないことになる。 

 室内空気汚染の問題もアレルギーの問題も、原因となる根っこは同じ、家のつくりそのものにあると思う。
高温多湿な日本の気候風土の中でつくられた住まいのかたちは、湿気、夏の暑さを重視した開放的な風通しの良い住まいがその基本となる。
 自然にさらされた住まいが冬寒いということで推し進められた断熱気密、自然との関わりを絶ち、室内環境を機械でコントロールしていくという発想そのものに無理があったのだと思う。
 もともと高断熱高気密の家は自然条件の厳しい国で生まれた工法。最近は、いろいろな輸入住宅が話題を呼んでいるけれど、気候風土、そして日本人のもつ自然観を無視した住まいのかたちは必ずどこかでひずみを生むと思う。

 冬の寒さが室内に影響しないようにと自然に対して住まいを閉ざしていくことは、冬の太陽熱そして夏の夜間の涼しさといった自然の恵みをも絶つ発想である。
 環境共生、エコロジーという考え方から今の家づくりは逆行しているように思える。冬寒かった昔の住まいに戻そうなどとは思わないけれど、少なくともクーラーがなくても生活できた日本の住まいを基本に、冬の暖かさをどう求めるか考えていくべきではないだろうか。
 室内の空気が汚染されれば、自然の空気も汚染される。換気がないから凝縮される室内の汚染空気を自然の空気で薄めているに過ぎない。

 自然の空気がどんどん汚染されれば、換気しても室内の空気はきれいにならない。
 日本が経済発展途上国であった時代におこった水俣病、イタイイタイ病、四日市喘息など、は様々な規制や技術革新により、大きな傷跡を残しながらも一応解決を見た。

 今は特定企業の特定物質による公害はなくなってきたかに見えるが、今なお、空気、、水、土壌汚染は続いている。ハイテク汚染に代表される、高度経済成長が新しい公害をつくっている。
 空気や水を媒介とした汚染は、広域にしかも長期に影響をもたらす。風にのって汚染された空気や水が国境を越える。地球規模の汚染を招くことにつながる。
 人間も自然の一部、自然と伴に生きている、その自然を大切に考えた家づくり、生活は、機械に頼ることではないだろう。
 農耕民族の血をひく日本人にとって、自然との共生という思想は深く根付いているはずである。

床下の毒物