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夫婦の生活実感でつくる家

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玄関を個室に

「夫婦の生活実感でつくる家」1997年発行

 玄関は家の顔と、広い広い玄関ホールに立派な器がどーんと鎮座まして、旅館のようなアプローチの家がある。
 でもどんなに頑張って玄関を立派にしても、玄関に立って視覚に入るのは味気ない暗い廊下と階段。せっかくの顔であれば、玄関ホールを含め、ひとつの部屋としてのしつらえにしてみるという発想はいかがなものだろう。
 そして玄関ホールから室内に入る仕切りを引き戸にして、引き戸の顔で味気ない廊下や階段を隠してしまう。
 引き戸を襖にして、贅沢が許されるなら、季節に応じて襖紙を張り替えるなどという趣向も楽しめる。
 これぞ靴箱という顔をした靴箱は置かないで、何がはいっているか解らないようなさりげない収納をつくれば全く新しい顔の玄関ができそうだ。

 玄関をパタンと閉めればそこはもう一室、めいっぱい独創性を発揮して我が家の顔をつくってみてはどうだろう。
 何故こんな提案をするのか、実は玄関を個室にすると、結果として家全体が個性豊かな楽しい空間をつくることができるからである。
 玄関を入る。引き戸を開けて一歩足を踏み入れた場所は、住まいの全景が一望できるリビング。リビングを中心にダイニング・キッチン、そしてリビングにつらなって開け放たれた和室、リビングの上の吹き抜けをとおして二階の様相までが目に入る。
 玄関から見えなかった階段はリビングの中につくられていて、ふっと見ると子どもがふたり階段に腰掛けて本を読んでいる。
 仕掛けは階段の幅が下の数段やたらと広くなっていて、踏板にも腰掛けるほどの余裕があった。だから子どもが座っていても、横を通り抜けれるようになっている。ベンチの役割をしている訳である。

 子どもたちが腰掛けていない階段にはかわいらしい花をつけた植木がおいてあった。階段が単に通路としてだけでなく、リビングに溶けこんだアートの空間となり、家族の憩いの場となっている。
 考えてみれば中廊下もリビングの中に吸収されてしまっている。部屋から部屋への通路は、リビングがその役割を果たしていることになる。
 出かける時も、帰ってきた時も必ずリビングを経由する。そういう意味では、リビングは第二の玄関とも言えるかも知れない。
 こう考えると家族空間と言われるリビングの果たす役割はことの他大きく、間取りを考える時はまずリビングから、などと言いたくなってしまう。
 玄関を個室にした結果、自然と広々した家族空間をつくることができた。このダイナミックな空間。それほど大きな家でなくとも十分な広がりがつくれるところがみそである。
 中廊下も階段も家族空間の中にとりこんでしまう訳だから、一つの大きな空間がつくれることになる、しかも吹き抜けがさらに視覚的広がりをつくっている。

 玄関の個室からいきなり家族空間に入ってしまうのはちょっと、と言う場合は、玄関の個室
に二つの出入り口をつくつておけば問題は解決する。
 ひとつの出入り口は家族空間とつながっていて、もうひとつの出入り口は客間とつなげておけば良い。
 新築の家へ遊びに行くとだいたい各部屋を案内して説明してくれる。しかし間取り図がないと全体が把握できないような家が多い。
 玄関個室、そしてリビングが第二の玄関となるようなつくり方をすると、リビングに居て、あそこの引き戸を閉めると客間、こちらがダイニングにキッチン、二階もドアを指させば説明できてしまう。
 リビングに居て家のつくりが把握できる住まい、それは家族がどこにいても顔が見える、顔がみえなくても気配が感じられる住まいでもある。

 もちろん、家族によってはもっと独立性の高い個室がいくつか必要、ということもあると思う。その場合でも、リビング中心のオープンな空間と組み合わせて考えていくことはできると思う。
 玄関を個室にすると、温熱環境の視点からもメリットがでてくる。冬、玄関を開けると外気の冷たさがホールから廊下へスーッと入ってくる。
 もちろん階段が玄関ホールの側にあれば二階まで外気の影響を受ける。吹き抜けなどあればなおさらのことである。
 玄関を個室にすれば、外気の影響を受けるのはそこだけですむ。雪国に見られる風除室の役割に似ている。
 玄関が冷えるのはもちろん開け閉めにより外気の影響をうけることによるが、玄関ドアの気密や断熱性も大きく影響している。また玄関に窓を設けた場合も、窓の断熱が問題となる。
 断熱気密ドア、断熱性の高い窓を使うなどすれば玄関の冷えはかなり解消される。外から帰ってきて玄関でワンクッション、そして室内に入れば、身体に与える温度差もやわらぐ。

 こうした工夫をしないで家をつくると、玄関、玄関ホールそして廊下はほとんど外気プラスアルファー程度の温度、そして室内が暖房されていたらかなりの温度差になる。

 室内と廊下の温度差は、部屋のドアを開けたとたんに、その冷気が結果として室内にまではいってしまうことになる。
 同じ玄関に気をつかうのであれば、こうした温熱環境までをも含めて配慮していきたい。玄関を個室、ひとつの部屋という風に考えれば、もっと大切な空間意識がでてくると思う。

 良く玄関のたたきを広くして椅子を置くという家を見かけるけれど、むしろ玄関ホールに置いた方が機能的だし、おしゃれな感じがする。
 玄関のたたきからホールへの上がりかまちも背の低い階段のようにつくっても良いのではないだろうか。
 老人にとってはその方が楽だろうと思う。玄関のつくりひとつにしても既成概念にとらわれず、自由な発想で考えてみたい。

 玄関を個室に、という発想から見えてきた新しい家のかたち。子どもたちがベンチ代わりに使う階段、広場のようなリビング。
 今まで限定された目的で使われていた空間にいろいろな使われ方が見いだされる、そのひとつひとつがゆとりとも言えるのではないだろうか。